カウンセリングにおける転移、逆転移を先生がどう捉えているかを書いて下さい。転移するのも逆転移するのもどちらも不安で戸惑うと思います。セラピストであれ患者であれ、転移で困っている人へのメッセージがあればお願いします、とのメールをいただきました。
この文面から、転移という表現で言いたいのは、セラピストへの恋愛感情か、あるいはそれに近縁の感情のことではないかと察せられます。その推察をもとにして書いてみます。
まずは、そういう感情が出てくることに驚くな、自然で当たり前のことだと捉えろ、と言いたいです。密室の中で、自分の感じていることを表現していく、言葉を用いて心を開いていく、そういう状況ですから、受け入れられている、わかられているとの感じに伴って、そういう感情が出てくるのは、多くの人にとっても想像が難しくないのではないでしょうか。
教科書的に言えば、そういう感情が出てきたらそれも話すようにしなさい、ということになるのだと思います。しかし現実には、相手へのそういう感情を口にするのには躊躇いがあって当たり前だと思います。もちろん話せそうなら話すのが一番いいし、それに伴う不安や戸惑いを含め、自分を知るためのとてもいい材料になるのは間違いありません。
僕は、その感情を自覚した上で、とりあえずはその感情に触れないでいるのもありだと思います。その感情が、自己表現、自己観察への意欲を高めるということだってありそうです。その場合なら、治療終了までその感情についての話題が出ないこともありうると思います。セラピストへの感情を表現しないと正しい自己理解に至らないということはないと思います。
問題になるのは、恋愛感情があることで自己表現や自己観察に向かう気持ちが阻害され、停滞してしまう場合です。最も極端なのは、意識的にせよ無意識的にせよ恋愛を成就しようとの方向にばかり気持ちが向かってしまう場合です。極端だと言いましたが、実はこれはそんなに珍しくないのです。カウンセラーとしてある程度経験を積んだ人なら思い当たる例が必ずあるのではないでしょうか。
僕はひところ、治療契約を結んだ直後に、「今こんなことを言うとびっくりするかもしれないけど、治療が進んでいく途中で、僕に対しての恋愛的な気持ちが生まれてくることがあってね、もし仮に将来そういうことがあったら、なるべくそのことも話すようにして下さいね。そういう感情が芽生えること自体はいいことなんだけど、でも、一種の失恋を味わわなきゃいけないこともわかっておいて下さいね」と言っていました。
逆転移について、セラピスト側に生じるクライエントへの感情、という意味だと捉えて書いてみます。
治療の場で起きる感情は、どんなものであれ、クライエントを身体感覚的にわかるために役に立つ。というのが僕の考えです。その時の感情が、自分の問題点とどの程度関係しているかどうか、それと同時に、相手のどこに反応して生じたものか、つまりは自己観察。そのことと相手についての理解の深まりが直接的、体感的につながっている、という感じです。クライエントに対する自分の感情に不安や戸惑いを覚えたことは、振り返ってみて、あまり記憶にありません。
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