こび その三 | 津川診療所 福島県 福島市 精神科 カウンセリング 精神療法 心理療法 精神分析 カウンセラー

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こび その三

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『こび その一』で、相手に合わせる、と書きました。

  ここを詳しく述べてみます。

  相手に合わせると言えば、依存支配型の気遣いに用いている"配慮"でも、同じく、"合わせる"と言えなくはありません。"こび"の特徴として"合わせる"という言葉を使いたくはなるのですが、"配慮"も"合わせる"には違いないのです。ただ、合わせ方に違いがあります。そもそも"こび"にしても"配慮"にしても、気遣いの無意識的動機は、潜在的孤独感を潜在したままにしておくためのものだと述べてきました。そのことを、相手や周囲との幻想的一体感を持つためのものだと言い換えることが出来ると思います。そう考えれば、"こび"でも"配慮"でも、いずれにしても"合わせる"になるのは、いくらか説得力を持つのではないでしょうか?

 "こび"と"配慮"の合わせ方の違いに焦点を当ててみます。

  相手の自分への期待に応える。そういう合わせ方から見ていくのがわかりやすと思います。これは"配慮"の合わせ方です。相手が自分に何を期待しているかにアンテナを張り、期待を察知し、その期待に応えようとします。相手の役に立とうとする、と言ってもいいでしょう。そのことは、家庭の中で、集団の中で、社会の中で、自分の役割を見つけそれを果たそうとするということにつながります。そして、相手から好かれたい、嫌われたくないと、相手の自分に対する好悪の感情を気にしているのが見えやすい感じがあります。相手からの評価を期待する気持ちが見えやすい、と言ってもいいと思います。

  "こび"の場合も、相手の自分への期待に応えようとしないではありません。でもそこにはそんなに積極的でない場合が珍しくないのです。期待に応えるのが最優先事項ではない感じがあると言うのがいいかもしれません。自分への期待に応えようというより、自分への期待も含めた相手の好みや願望に合わせようとする、と言った方が近い感じです。そして、相手からの評価を気にする程度は"配慮"の場合とかわらないのですが、ただ、"配慮"の場合より、見えにくい傾向があると感じます。目につくのは、相手との摩擦を起こさないように、揉め事を起こさないように、という気持ちです。

 相手の怒りを嫌がり避けるのは"こび"でも"配慮"でも同じです。しかし嫌がり方が微妙に違います。"こび"では、相手の怒りでその場が乱れ、波風が立つことを直接的に嫌がる感じです。"配慮"では、怒られることが、嫌われたこと、評価が下がったことだと受け取られ、それを嫌がる感じです。

 合わせることが出来ている時の感じ、それは幻想的一体感が成立している状態だということになりますが、そこにも微妙な違いがあります。"こび"では、静か、穏やか、まったり、といった言葉が似あいます。"配慮"では、同調的という表現がぴったりしている感じがします。静か、穏やか、まったりに対比させれば、優しい,、柔らかい、明るい、という形容詞が思い浮かびます。

 自分への期待も含めた相手の好みや願望に合わせようとすると書きました。不十分です。相手の好み、願望、価値観、態度、雰囲気、そういうものに添おうとする、一致させようとする、と言った方がより近そうです。この表現だと、合わせ方の"配慮"との違いをいくらかは際立たせることが出来る気がします。

 そして、"こび"の場合、そうやって合わせるのは、実は、自分のペースを保つため、自由を守るため、その為に仕方なくそうしている、という感じがあります。深いところ、本音の部分、生の感情、そういうところを隠し、触られないようにするために、表面的なところで合わせているという感じがあります。

 いつも本当の意味では関わっていない。本当の意味での参加をしない。これが"こび"の本質だ。僕が最も強調したいのはここです。

 幼少期に、本当の意味で関わることは危険だ、自分を失ない破滅することにつながる、生き延びるためには自分にとって最も大事なところを隠しておかなければならない、というようにインプットされているに違いないと考えます。 治療というのは、セラピストとクライエントの間に本当の関わりが生じることを目指すものだ、と言えると思います。こびるのが特徴であるクライエントとの治療の経過の中では、隠せない、侵入されそうだ、 乗せられそうだ、邪魔されそうだ、といった警戒感や不安がまず間違いなく話題になります。インプットされたものに触れざるを得ないからだと思います。

 自由やマイペースを好み、束縛を嫌うところは一貫しています。治療が進んで、本当にかかわることが増えてきても、そこは変わりません。

  こびているとは、元々自由を求める気持ちの強い人が、環境のせいで、偽りの自由にしがみついているということだ、との表現が可能だと思います。
 
 これを"配慮"について言えば、元々本当の愛を求めている人が、環境のせいで、偽りの愛にしがみついている、ということになると思います。

  

  

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