"こび"と"配慮" | 津川診療所 福島県 福島市 精神科 カウンセリング 精神療法 心理療法 精神分析 カウンセラー

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院長あいさつ

"こび"と"配慮"

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 "こび"と"配慮"について、僕のその言葉の使い方が辞書的な意味と食い違っている、どういうことなのか、という内容のご質問をいただきました。

 『"気"と"気づかい"』で、僕なりの意図を書いたつもりですが、違和感を感じる方が少なくなさそうなので、繰り返しになることを怖れず、もう一度、僕の考えを整理してみます。

 孤立型、依存支配型、それぞれの人間関係場面での防衛のあり方を"こび"と"配慮"と呼んでいます。辞書的な意味と違っているのはわかった上であえてこの表現を用いています。

 まず"配慮"についてですが、本当の意味での"思いやり"を含んではいるが同じではないという前提があります。"思いやり"には相手の立場に立ってその相手のためを思う、そしてその相手のために出来ることをする、という語感があると思います。深い共感が前提とされている感じがある、と言ってもいい。"配慮"も、そのような意味合いで使われることが一般的かもしれません。ですが、"思いやり"という表現よりは、相手の立場に立っているとの含意が少ない、必ずしも深い共感が前提とされてはいない、と言えそうな気がします。

 そもそも相手の立場に立つとか、深い共感が成立するとか、実は、そんなに簡単なことではない。相手の立場に立とうと意図することはそんなに難しくないかもしれないが、自分が立っているその場所が、本当に相手の立っている場所なのか、厳密に言えば、その相手でなければ絶対にわからない。思いやっているつもりでも、相手とどこかずれている、相手からからすれば有難迷惑だ、ということが珍しくない。思いやりが思いやりとしてその名にふさわしく成立するのが相当難しいことは確かだと思うのです。

 ということは、現実に行われている"配慮"には、大抵の場合、本当の思いやりとちょっと違う部分が含まれている、ということになる。そこを詳しく言えば、自分が認められるために、自分が好かれるために、自分の安全のために。そして、自己満足的な思いやりのために。要するに自己中心的な動機です。

 "配慮"は、自己中心的な動機からのものがほとんどである実態を表現するのに、相手の立場に立つという含意が少ない分、あるいは深い共感が必ずしも前提にされていない分、使いやすい。

 また、"配慮"を"こび"と並べて使うことで、本当の思いやりではないいわゆる思いやりの、偽善性、欺瞞性に注意が向きやすくならないだろうか、との期待もあります。

 一方"こび"ですが、こちらは逆に、そもそもの語感が、不健康なもの、神経症的なもの、ネガティブなものだと思います。最初から自己中心性を示していると言ってもいい。実態に即している、とも言えそうです。そして、自分の防衛を"こび"と呼ぶのがピッタリしているとの、自分自身の分析の中での発見からそもそもが出発しているということ。更に、その観点から観察を続けて来て、「使えるな」という確信が増しているということ。それらから、"こび"は外せない感じなのです。

 ここまで書いてきて、ぼんやりしていた自分の気持ちが明確になった、という感じが生じました。"配慮"的な人たちから差別されてきた、との感じがあることに気が付いたのです。僕には、世の中、依存支配型的な価値がメジャーを占めていると感じられます。"配慮"が苦手な自分には何とも生きにくい世の中だ、という感じを持ち続けてきたようなのです。"配慮"にポジティブな含意があり、"こび"がその逆だというところに、依存支配型的価値観が優位である世の中のありようがストレートに出ているのではないか、だったら"配慮"の地位を引き下げて"こび"と同等なものとして使おう。そんな気持ちがあったんだと思います。

 ここで連想が拡がりました。僕の、"配慮"的な人からの被差別感っていうのは、多くの女性達が今の世の男性達から受ける感じと通じるものがあるのではないか、との問題意識です。世の中、特に日本ではと言ってもいいかもしれませんが、まだまだ男性的な価値観が優位を占め、女性的なものが色々な場面で過小評価されているのは間違いないと感じます。男性的なもの女性的なもの、それが一体何を指すかを今言葉にするのはやめておきますが、でも、女性的な価値がもっともっと注目され大事にされていく時代の流れがあるのもまた間違いないことだと感じます。それと同じようなことが孤立型と依存支配型の関係にも言えそうだ、という気がしてきたのです。
 

 

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