強迫性と自発性 その三 | 津川診療所 福島県 福島市 精神科 カウンセリング 精神療法 心理療法 精神分析 カウンセラー

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強迫性と自発性 その三

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 次は書くという動作についてです。

 僕は字を書く時に手が震えます。落ち着いて一人でいる時でも字を書こうとすると震えますが、緊張したり、人に見られていたりすると震えがひどくなります。冠婚葬祭とか何かのパーティーとか、割とフォーマルな雰囲気の場所で、向こうに受付の人が何人か立っている前で署名しなければならない時が最も苦手です。妻が一緒に出席する時は、妻に書いてもらうのが常でした。

 字を書く時にも僕の強迫性、「早く行動しなけらばならない」、が働いているに違いありません。働いていて、それを感じる機会が増えています。ここまでの文脈からすると、それを直接感じる度合いが増し、その結果強迫性が和らいでゆっくり書くようになった、ということだと都合がいい。しかし現実はそれとはちょっとだけ違います。書くことに関しては、大分以前から、意識してゆっくりゆっくりと自分に言い聞かせている場面がありました。そうしないと、手が飛び跳ねるように動いてしまい、全く書けなくなってしまう。呼吸法の経験を生かして、ゆっくり息を吐きつつ下腹部を意識しながら書く。そうすることで、人前で署名する場に一人で出席する非常事態を何とかしのいできました。

 若いころから字が下手でした。一つ一つのの字のバランスも、文を書いた時の全体のバランスも、どこか変、何より丁寧さがない。悪筆の典型と言っていいと思います。きれいな字を書く人を羨ましいと思ったことはずいぶんありましたが、字がうまくなるように練習してみよう努力してみようと思ったことは記憶にある限りない。相当昔からあきらめていました。

   カルテの記載は、話を聞きながら速記的に書くのが習慣でした。読めないとはよく言われましたが、内心で、震えるんだから仕方がない、自分では読めるからいいじゃないか、と開き直っていました。年をとるごとに、自分でも読めなくなってきていましたが、キーボードに打ち込むことができるようになって、あまり深刻なものではなくなっていました。

   多くの日常的な場面では、綺麗に書こうとの気持ちは捨てて悪筆を堂々と晒し、どうしてもある程度はちゃんと書かなければならない場面では、少し真剣モードになる。何れにしても、その場をしのいでいただけ、とまとめることができると思います。

   いつの頃からかはちゃんと記憶していませんが、『その二』に書いた、いわきの病院での体験の頃からだったような気もします。非常事態を凌ぐ為の方法を、日常場面でも用いるようになってきました。その頻度が少しづつ増してきていた。字を丁寧に書こうとの意図の元、吐く息とともに丹田の辺りを意識しながら書く。そうすると、早くチャチャチャっと書いてしまおうとする衝動が自分の中にあり、それに引っ張られそうになるのを感じる。引っ張られてしまうことも少なくない。たまに、それが減ってゆっくり落ち着いて書ける時がある。そういう時は字の震えも少ない気がする。そしてある一瞬、早く書こうとする動きと同時に、堪えている感じ、ぐっと歯を噛みしめるような感じの力が働いていると感じることがありました。「ああ、早く行動しようっていうのは一種の力みなんだなあ」とちょっとした発見をした気分になりました。

   この力みは、歯磨きにも出ているんだと知らされる場面がありました。歯磨きをしている自分が、鏡の中で、顔をしかめて苦痛に耐えているかのような表情をしているのに気づいたのです。その時、ああこれだ、ここに力みがでている、と感じたと同時に、「お袋にやらされている」との感じが湧き上がりました。この感じも、いわきの病院の時と同じように、昔の具体的な場面を思い出しているわけではない。でも、昔こうだったこと、母の圧力を感じながら嫌なものを無理やりこなそうとしていたこと、を確信できる感じ。

 頂き物のお礼状も妻に書いてもらっていました。去年か一昨年か、ふと、自分で書いてみようという気になり、参考書を見ながら実行しました。この年になっての初体験です。それができたこと自体、自分でも悪くない気分でした。相手の方から字を誉められたのは驚きでした。望外の喜びでした。

 最近友人が立て続けに入院し、お見舞いに行く機会がありました。二つの病院の面会受付で名前を書かされました。その時、あれっという感じがありました。『性格を変えられるか?』に書いた、髭剃りの感じと似ています。なんだか今までと違う、すんなり書けるなあ、という感じ。これも嬉しい出来事でした。

 

 
 
 
   

 

 

 

 

 

 

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